認知症の方とケアの専門家が生活を共にする介護施設「グループホーム」。
ここでは一日として同じ日はありません。グループホームで繰り広げられた「心 温まる物語」をご紹介します。
vol.6 長かったある日の夜勤
オープンを迎えて、数週間が経った当時のホームは、ご利用者様も順調に増えてほぼ満室の状態でした。
開所当時のあたふたした忙しさからも、「早く満室にしたい」というプレッシャーからも少しずつ解放されていたのですが、その日は体調に妙な変化を覚えつつ、夜勤を迎えていました。
夜中、日付が変わった頃に違和感が悪寒に変わっていました。
恐らく、蓄積された疲労から風邪を引いてしまったのでしょう。
朝5時、最後の巡視を終えると熱は上がり、計ってみると38度を超えていました。
早番勤務の同僚に連絡を入れましたが、交通の事情でそれほど早い出勤は無理とのこと。
どうしたものかと思いましたが、幸い当時のご利用者様の皆さんは、起床介護を要する方が一人もいらっしゃらなかったので、ひとまず朝食の準備を済ませてしまい、それから椅子にもたれかかり、ぐったり休んでいました。
少しずつ皆さんが起きてこられ、そんな様子の私をご覧になられ、
「大丈夫?」「休んでいなさい」と優しいお言葉をかけてくださいました。
皆さんはご自分で食事の配膳も、後片付けも済まされたとのことでした。
私は覚えていなかったのですが、後に早番勤務の同僚が驚きながら教えてくれました。
さて…
私はさらに体調を悪くして、座っているのもままならない状態になっていました。
そんな私を見たご利用者様のお一人が椅子を並べて、
「ここに休みなさい」と横になるスペースを作ってくれたのです。
「申し訳ありません」と、お言葉に甘えてそのスペースに横になりました。
すると、私を心配したほかの皆さんが次々と集まってこられ、
「暖かくしなきゃ駄目よ!」と布団をかけてくださったり、
「冷やさなきゃね」と頭にしぼったタオルを乗せてくださったりと、介抱してくださったのでした。
私は、申し訳なさと情けなさと、感謝の気持ちで胸が一杯でした。
早番の同僚が到着して目にしたのは、布団の山に埋まった私と、それを心配そうに見守りながら、囲んでおられるご利用者様の皆さんだったとの事でした。
皆さんは口々に「早く病院に連れてってあげて!」と訴えておられたそうです。
オープンより、「共同生活=みんなの家」を心がけて頑張っておりましたが、この出来事は、私の不徳によって起こったことながら、この「愛の家」が、ご利用者様とスタッフをも含めた「みんなの家」なんだと、感涙と共に実感した出来事でした。
この一件以来、私にとってご利用者様の皆さんは、とても大切な家族の一員と強く認識しています。
だからこそ、これからも一緒にたくさんの思い出を作りながら、同じ宝物を共有していきたいと思っています。
(追伸)
私の頭にしぼったタオル…と書きましたが、実はあれタオルではなく床清掃用の雑巾でした(笑)。
でも、それもまた楽しく愛おしい思い出です。