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認知症の方とケアの専門家が生活を共にする介護施設「グループホーム」。
ここでは一日として同じ日はありません。グループホームで繰り広げられた「心 温まる物語」をご紹介します。

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vol.1 Mさんの似顔絵

M(87歳、男性)さんは息子さん夫婦と同居していたが、もともと息子さんとの折り合いが悪く、数年前から認知症状も現れ、タバコの火の始末や物盗られ妄想が激しくなり、家庭での介護が困難となったため入居となった。

息子さんの話によると、Mさんは会社勤めをしたことがない、俗に言うチンピラだったそうだ。 グループホームへの入居については、一応親子の間で合意したうえだったそうだが、入居後は、スタッフに対してはもちろん、他のご入居者様を馬鹿にしたり、スタッフに暴言を吐いたりすることが頻繁にあった。

ある日の午後、絵が得意だった私は、その日出勤していたスタッフと一緒に、フロアにご入居者様を集め、みんなの似顔絵描きを披露していた。 「私そんなん顔違うわー」「あっ兄ちゃん上手やねぇ」。 おやつを食べながら賑やかにテーブルを囲んでいた。

そこで私は「ここはひとつ」と、部屋に入って出てこないMさんの顔を頭に思い浮かべながら似顔絵を描き、Mさんに届けに行ってみた。

しかし結果は予想通りだった。 Mさんはその絵を見るなり、私の手から荒っぽくその絵を奪い取り、 「しょうもない事するな!こんなガキみたいな事しやがって!」とその場で破った後、枕元に置いてある小さなゴミ箱に投げ捨ててしまったのである。

ご入居者様やスタッフも、暴言の多いMさんから、だんだんと遠ざかっていくようになっていた。

そんな荒っぽく、博打好きの「チンピラ」だったMさんだが、実は酒は一切飲まず、入居後の唯一の楽しみと言えば、タバコを吸うことであった。

私が働いているグループホームは全館禁煙で、喫煙者は玄関を出た所に灰皿が置いてあるだけの「喫煙コーナー」で、スタッフ付き添いでタバコを吸うことになっていた。

今にしてみれば、大変恥ずかしい話だが、当時仕事に対しあまり熱心とは言えなかった私は、 「Mさんを煙草に誘えば、仕事中にタバコが吸える。Mさんの話なんか適当に聞いとけばいいや」などと軽く考えて、1日に何度もコーヒーを持って、文字通りMさんを「喫煙コーナー」へ誘い、一緒に煙草を吸う、いわゆるおさぼりを繰り返していた。

それから数ヶ月が経ち、風邪をこじらせたMさんは、体調が悪化し、近くの病院へ入院することになってしまった。

病院へ移った後、私と家族の方とで、Mさんが入居されていた部屋の片付けをしていた時のこと。 ふと気がつくと、押入れの物を片付けていた息子さんが、奥の方から取り出した、蓋のない菓子の箱を持って私の方を振り向き、「ありがとう、本当にありがとう」と目に一杯涙をためて声をつまらせていた。 「なんだろう」と思い、その中を覗かせてもらうと、残り数本のタバコと眼鏡と小さくなった鉛筆、そしてクシャクシャになった紙一枚が入っていた。

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その紙は、以前私が描いたMさんの似顔絵だった。 あの時破って捨てた後、ゴミ箱から集めてセロテープでつなぎ合わせたのか…。と思いながら何気なくその紙を裏返してみると、決して上手とはいえない薄い字で、 「コーヒーの兄ちゃんおおきに」と書いてあった。

その時、胸がたまらなく熱くなった。 そして、初めて「介護」という仕事の本当の意味がわかったような気がした。

 

 


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