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認知症の方とケアの専門家が生活を共にする介護施設「グループホーム」。
ここでは一日として同じ日はありません。グループホームで繰り広げられた「心 温まる物語」をご紹介します。

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vol.4 あなたから教わった

「あなた、郵便貯金通帳?」
「えっ?」
「あなたは郵便貯金通帳なの?」
「……?」

私とEさんはお互いの顔を見つめ合いました。

Eさんは70代半ばの女性で、とても若々しく見えました。
『なぜ、認知症高齢者グループホームに入居しているのかしら?』
そんなことを頭の中で考えながら、交わした会話が郵便貯金通帳のことでした。

Eさんとは、通常の会話をすることができません。
全部「郵便貯金通帳」になってしまうからです。

会話はできませんでしたが、私はEさんが大好きでした。
洗濯物を干すのも、買物に行くのも、ゴミを捨てに行くのも、いつもEさんと手を繋いで一緒に行ないました。
時には別のご入居者様も交えて賑やかに、ある時には2人だけで。
別のフロアのスタッフから、「いつも一緒だね」とからかわれるくらい、いつも一緒にいました。

Eさんができることは多くありませんでした。
でも、一生懸命手伝ってくれようとする気持ちが伝わってきました。
思い込みかもしれませんが、私が大好きだったのと同じくらい、Eさんも私のことを好きでいてくれたと思います。

それまで、なかなか他のご入居者様と関わりが持てなかったEさんでしたが、共に行動する機会が増えたことにより、居室にこもりがちになることが減りました。

また、居室での放便・放尿が頻繁になった時、私はEさんが寝る前に、「今日は私がお泊まりなの。トイレに行きたくなったら、起こしてくださいね。」と声を掛けて就寝介助しました。
そうすると、不思議なことに居室での放便・放尿に遭遇することはありませんでした。

そんなEさんでしたが、分からないことが増えるにつれ、グループホームでの生活が困難になってきました。
ご家族の意向もあり、退居が決まってしまいました。

Eさんが退居の前日、私は夜勤でした。
Eさんは退居することなど知らず、パジャマ姿でテレビを観ていました。

私は黙ってEさんの隣に腰を下ろしました。
2人で並んでテレビの画面を眺めていました。

どれくらい時間が経ったでしょう?
突然、Eさんが私の頭を撫で始めました。
髪がくしゃくしゃになる位、ずーっと撫でてくれました。

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ふとEさんの顔を見ると、にこにこ笑いながら目が潤んでいます。
私も涙が溢れそうになるのを堪えながら、
「さ、もう寝ましょうか。」と立ち上がりました。

次の日、普通に外出するようにEさんは退居されました。

初めてのグループホームで、Eさんと行動を共にすることから本当にたくさんのことを学びました。
触れ合うことの大切さ、共に行なう喜び、分かり合える嬉しさ…。
今でも時々、Eさんのことを思い出します。
Eさんと共に過ごした日々が、今の介護に生きています。


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